IT社会と個人情報保護 自治体による「個人情報」運用の技術的・社会的環境と課題
2. ITとは何か? ――情報結合と相互的通信の有用性およびリスク
シリーズ 02
2005.September 西邑 亨

© Nishimura,Tohru

2. ITとは何か?

――情報結合と相互的通信の有用性およびリスク

2.1 情報結合
――時代遅れとなった「個人情報結合の原則禁止」

レガシーシステム(大型コンピューター)の「プログラム」として固定された「事務処理手順/制度」を長期にわたって維持し、その間新たな「個人情報の結合」を排除してきたのが、従来の自治体などの実態だった。ICTの「情報結合」が持つさまざまな「可能性」は、そうした、実務の固定化・硬直化を突き崩し、業務の目的や体制などを根本的に転換するための、契機と手段を提供している。その有用性は多くの民間におけるICT導入事例が端的に示してきた。
 ICTの導入において、その主要な技術的特性のひとつである「(個人)情報の結合」を排除し続けることは無意味だろう。レガシーシステムに適合する「個人情報保護」対策として作られた「個人情報結合の原則禁止」という規定は、時代遅れになっている*1
むろん、「個人情報」の結合から新たな「個人情報」が再構成・創出されることは、それ自体で「プライバシー侵害」的である。ICTの導入は、「個人情報」の本人のリスクを確実に増大させることになる。あるいは、「監視国家」の深刻な状況を急激に増大させるかもしれない。ここでは、日本の行政機関(自治体)がICT時代に適応するために、「個人情報結合の原則禁止」に代わるどのような制度が必要であり可能なのか?――という切実な課題が問われている。ICTは「監視国家」への道を切り開く手段になり得るが、根本的な「行政改革」によって「監視国家」への道を閉ざす契機を提供するものでもある。

*1:多くの自治体が、総務省の指導をきっかけとしてこの条項を改訂している。しかしそれらが、ICTとその広範な社会への普及の中でどのように評価されるものであるかは、これからの研究課題である。

2.2 通信の相互性
――流通情報のコントロールと自治体自律

ICTにおける「通信:communication」は「相互的」あるいは「対等の」関係において行われている。このことは、レガシーシステムにおける情報交換のプロセスが、基本的には、「ホストによる制御」とそれに「従属する端末」という関係で行われていることと対照的である。
 この関係は、ネットワーク上のある利用者に情報提供がリクエストされたとき、情報提供の可否と提供情報の範囲はこのリクエストを受けた利用者の任意の判断に依存していることを意味している。しかしこの相互性はまた、「提供」された情報が、原則として提供先の任意の処理にゆだねられることをも含んでいるのである。「裸の相互性」においては、「提供元」である利用者は「提供」済み情報のその後をコントロールしない。
 このような「裸の相互性」の中で「個人情報」を流通することを想定するなら、それは「プライバシー侵害」的であることを防御していないという意味で、現実的ではない。
この問題に対して、日本の「個人情報保護」制度はある種の解決を意図している。「個人情報」を運用するそれぞれの「利用者」の活動が、すべて一律にこの制度を遵守することによって、「それぞれの利用者ごとに個人情報を保護する」という図式である。
 この図式は、とくに行政システムにおいて、すべての利用者が、ある「特定の利用者であるオーソリティ」に確実に従うことをほとんど無条件の前提としているため、ICTにおける通信の「相互性・対等性」との間で不整合を起こしている。その結果、実効性は担保されていない。実際、「端末」である自治体が「オーソリティー」自身の制度遵守について、「端末」独自の視点から疑義を提出した瞬間に、制度の実効性は破綻した*2
 このことは、改正地方自治法で明確にされてきた自律的主体としての自治体の地位と深く関わる課題だと言えるだろう。ICTと整合する実効的な「個人情報保護」制度を考える上で、自治体の自律性はきわめて重要なファクターである。

*2:東京・国立市の住基ネット切断の事例:http://www.city.kunitachi.tokyo.jp/~shimin/03shimin/0303/030301/030301jnet/030301_jnet.html

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